香港の証券市場を監督する証券先物委員会(SFC:Securities and Futures Commission)は2026年10月13日、新規株式公開(IPO)で株式への需要を偽り・人為的に演出する不正スキームに関わった疑いのある2つのグループについて、証券会社に口座資産の取り扱いを禁じる措置を取ったと発表しました。対象資産の上限は2グループ合計で約46.6億香港ドルです。あわせて、IPOが仕組まれた可能性に重大な懸念があるとして、四川百茶百道実業(銘柄コード02555)の売買を同日朝から停止させました。いずれも不正が認定されたわけではなく、調査は続いています。
四川百茶百道の売買停止
SFCは香港の株式取引所(SEHK:The Stock Exchange of Hong Kong)に、四川百茶百道実業(Sichuan Baicha Baidao Industrial、以下「百茶百道」)株の売買停止を指示しました。根拠は、SFCが上場会社株の売買停止を取引所に指示できると定めた「証券及び先物(株式市場上場)規則」(Securities and Futures (Stock Market Listing) Rules)第8条1項で、停止は10月13日午前9時からです。同社は2024年4月23日にメインボード(主板)に上場しており、英字紙では「ChaPanda」の名でも報じられています。
SFCは、同社のIPOが「株式需要の人為的な印象をつくるために仕組まれた可能性」に重大な懸念があるとし、調査が続く間、秩序ある公正な市場を保ち投資家を守るために停止が必要または適切だと説明しています。
2グループへの「制限通知」(2026年10月13日時点)
| 第1の疑いグループ | 第2の疑いグループ | |
|---|---|---|
| 通知を受けた証券会社 | 6社 | 29社 |
| 対象口座の名義 | 個人1名と関連会社8社(英領バージン諸島・セーシェル・サモアで設立) | 個人1名と香港法人2社 |
| 対象資産の上限 | 4,379,463,215香港ドル(約43.8億) | 285,030,265香港ドル(約2.85億) |
| 疑いのあるIPO | Cloudbreak Pharma、百茶百道 | Tianju Dihe (Suzhou) Technology |
第1グループの金額について、SFCは同種の措置として「SFC史上最大の額」と表現しています。2グループの上限額を足すと約46.6億香港ドルですが、これはあくまで通知の対象となる資産の上限で、不正で得た額や没収が決まった額ではありません。なお、6社と29社のうち4社は両方の通知先に含まれています。Tianju Diheは2024年6月28日に上場し、2025年4月1日から売買停止が続いています。
疑われている手口:IPO資金の「還流」
SFCによると、上場会社と疑いグループの間の公表されていない合意に基づき、IPOで集めた資金の一部が「金融商品への投資」という名目で会社の外へ移された可能性があります。そしてその合意によって、資金がIPOの主要な配分先(大口で株の割り当てを受けた投資家)やその関係者へひそかに戻された可能性がある、というのが疑いの中身です。
払い込んだ資金が会社経由で戻ってくるなら、配分先は見かけほど資金を負担していないことになり、IPOの人気が実態を反映しない恐れがあります。ただし、SFCの説明はいずれも「可能性がある(may have)」という段階で、不正は認定されていません。
証券会社やほかの顧客への影響は
制限通知は、証券及び先物条例(SFO:Securities and Futures Ordinance)第204条・第205条に基づく措置です。通知を受けた証券会社は、SFCの事前の書面同意なしに対象資産を処分・取引すること(他人にそうさせる手助けを含む)や、対象の個人・会社からの指示を実行することが禁じられ、対象資産に関する指示を受けたら直ちにSFCへ報告しなければなりません。
SFCは、通知を受けた証券会社は調査の対象ではなく、通知は証券会社やその他の顧客に影響しないと明記しています。通知先にはFutu Securities International (Hong Kong)やTiger Brokers (HK) Globalなども含まれますが、一般の顧客の口座が今回の措置で動かせなくなるわけではありません。
また、SFCは資産の保全が投資家と公益のために望ましいと判断しており、関係者が将来、返還(restitution)手続きを通じて、影響を受けた投資家への補償を命じられる可能性があるとしています。
背景:9月のCloudbreak Pharmaに続く措置
第1グループが関わった疑いのあるCloudbreak Pharmaは2025年7月3日に上場し、SFCは2026年9月10日に同社株の売買停止を指示していました。今回は、同じ疑いグループが百茶百道のIPOにも関わった疑いがあるとして、措置が広がった形です。
SFCのジュリア・リョン(Julia Leung)最高経営責任者(CEO)は、IPOの不正操作や株価操作、虚偽の市場形成には「ゼロ・トレランス(一切容認しない)」の方針だと強調しました。法執行部門のMichael Duignanエグゼクティブ・ディレクターは、これまでの措置で2つの疑いグループを「大きく妨害した」との見方を示し、香港のIPO市場の公正さへの信頼を高める狙いもあると述べています。
投資家にとっての意味
香港でIPOに申し込む個人投資家にとっては、申込みの盛況ぶりをどこまで需要の実態として受け止めるかを考える材料になるニュースです。ただし、今回疑いの対象となっているIPOは上記の3件です。
百茶百道の株は、売買停止中は取引所で売買できません。停止の解除時期や、返還手続きが実際に始まるかどうかは2026年10月13日時点で公表されておらず、SFCは調査中は追加のコメントをしないとしています。
まとめ
SFCは2026年10月13日、IPOの需要偽装が疑われる2グループについて合計最大約46.6億香港ドルの口座資産を保全し、百茶百道の売買を停止させました。疑われているのはIPO資金の配分先への還流で、不正は認定されておらず調査が続いています。売買停止や返還手続きの今後は、最新の状況をSFC・香港取引所の公式発表で要確認です。

