社会

香港2026年上半期の犯罪1.5%減 フィッシング詐欺は61%増

香港の街頭の治安は改善しているのに、政府機関や銀行をかたる「フィッシング詐欺(釣魚騙案)」だけが前年同期比61%増――。保安局局長(Secretary for Security)の鄧炳強(Chris Tang)氏は2026年7月31日、撲滅罪行委員会(Fight Crime Committee)の会議後の記者会見で、2026年上半期(1〜6月)の犯罪統計を公表しました(香港政府新聞網、2026年7月31日)。全体の認知件数は42,736件で前年同期比1.5%減。ほぼすべての罪種が減少するなかで、大きく伸びたのがフィッシング詐欺です。在住者にとっても日系企業にとっても、注意を向ける先が「街」から「画面」へ移りつつあることを示す内容になっています。

目に見える犯罪は軒並み減少

記者会見で示された上半期の主な数字は次の通りです(同発表、2026年7月時点)。

  • 全体の認知件数:42,736件(前年同期比1.5%減)
  • 暴力犯罪:4,144件(同5%減)
  • 侵入盗・窃盗・恐喝・器物損壊などの伝統的な犯罪:3.2〜40%減
  • 深刻な薬物事犯(厳重毒品罪行):532件(同10%減)
  • 依托咪酯(エトミデート。いわゆる「太空油」)関連:396件・逮捕521人(それぞれ14%減・7%減)

対面型・街頭型・侵入型の犯罪は一様に減っており、日常生活で身の回りに感じる治安という意味では、統計上はむしろ改善しているといえます。

詐欺は高止まり、フィッシングだけが逆行

一方で詐欺(詐騙案)は20,613件(0.7%減)、被害額は35.1億香港ドル(HKD、0.8%減)とほぼ横ばいのままです。公表値から単純に計算すると、認知件数全体のおよそ48%、つまり半分近くを詐欺が占める計算になります(この比率は当局が示した数値ではなく、公表値からの計算です)。

詐欺の内訳では、ネット詐欺(網上騙案)が11,727件で最も多く、当局はこれが詐欺全体の57%を占めるとしています。こちらは18%減と大きく減りました。

そのなかで例外的に増えたのがフィッシング詐欺(釣魚騙案)で、前年同期比61%増。ただし被害額は29%減の約4,140万HKDでした。件数の実数は今回公表されていないため、1件あたりの被害額を割り出すことはできませんが、「件数は増える一方で、金額は小口化している」という形は読み取れます。被害額でみればフィッシングは詐欺被害総額の約1.2%(同じく公表値からの計算)にとどまります。

手口について当局は、政府部門や銀行の職員を装い、切迫した文言でリンクをクリックさせたうえで、偽サイトに口座情報や個人情報を入力させるものだと説明しています。どの部門・どの銀行をかたる例が多いかまでは、今回の発表では特定されていません。

背景:高額型から「広く薄く」型へ

当局はこれまで、反詐騙協調中心(ADCC、Anti-Deception Coordination Centre)や、電話番号・URL・銀行口座などを照会できる「防騙視伏器(Scameter)」による啓発を重ねてきました。ネット詐欺全体が18%減となる一方、フィッシングだけが件数を増やし、しかも被害額は29%減――この組み合わせからは、1件あたりの金額が小さい手口の比重が上がっている様子がうかがえます。偽サイトとメッセージの大量送信で成立するフィッシングは、それ自体が量産しやすい手口でもあります。ただし「取り締まりを避けて広く薄く撃つ型へ流れた」という因果関係は当局が公表した説明ではなく、公表数値からの解釈にとどまります。

在住日本人・日系企業にどう関わるか

この変化は、香港在住の日本人にとって他人事ではありません。iAM Smart(智方便)や税務・出入境関連のオンライン手続き、銀行アプリを日常的に使っている以上、「当局や銀行からの通知」を装うメッセージが届くこと自体は日常の延長線上にあります。加えて、中国語や英語で届くSMS・メールの真偽をその場で判断しづらい場面――着任して間もない時期や、通知を家族が代読しているご家庭――では、切迫した文言に反応してしまうリスクが相対的に高くなります。

なお、上半期統計とは別枠の話として、香港ポスト(2026年7月31日)は、香港警察が公表した事案として、WhatsAppのアカウントを乗っ取ったうえでAIが生成した偽の音声メッセージで父親になりすまし、男性から1,000万HKD超をだまし取ったケースを報じています。同紙によれば、直近2週間の同種被害は計2,600万HKD超とされます。これは今回の統計の一部として公表されたものではありませんが、アカウント乗っ取りの入口がフィッシングであることを踏まえると、「被害額の小さい入口犯罪」で終わらない可能性を示す例といえます。

個人と企業、それぞれの備え

個人としては、次の3点が現実的です。

  • 行政機関や銀行を名乗るSMS・メール・メッセージのリンクは開かない。手続きは必ずブックマーク済みの公式サイトか公式アプリから自分でアクセスする
  • 疑わしいURL・電話番号・銀行口座は、香港警務処(Hong Kong Police Force)の照会ツール「防騙視伏器(Scameter)」で確認する。判断がつかなければ反詐騙協調中心(ADCC)のホットライン18222へ連絡する(鄧氏も記者会見で、リンクを開いたり個人情報を入力したりせず18222へ相談するよう呼びかけています)
  • WhatsAppの二段階認証(two-step verification)を有効にし、リンク済みデバイスに身に覚えのない端末がないか定期的に確認する(香港ポストが伝えた警察の呼びかけによるものです)

日系企業の実務では、送金や支払先変更の指示をメッセージや音声メッセージだけで確定させないルールの明文化が要になります。事前に登録した番号への折り返し電話など、必ず別経路で再確認する運用にしておきたいところです。AIで本人の声を再現された事案が報じられている以上、「声で本人確認をした」ことを有効な確認手段として扱わない前提に切り替えておくのが安全でしょう。

まとめ

2026年上半期の香港は、暴力犯罪も侵入盗も減り、統計上は治安が改善しています。それでも認知件数の半分近くを詐欺が占め、そのなかでフィッシングだけが61%増と逆行している――ここが今回の統計の読みどころです。守るべき対象は、財布や玄関よりも、リンクを踏むかどうかの数秒に移りつつあります。

なお、香港警務処の公式統計ページは2026年8月2日時点では2026年1〜3月分までの掲載にとどまり、上半期の罪種別の実数表はまだ公開されていません。本記事の数値は記者会見時点の公表値です。確定した内訳や最新の数値は公式発表で必ずご確認ください。

出典

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