香港高等法院原訟法庭(Court of First Instance)は2026年8月21日、2021年に解散した民主派団体・支聯會(香港市民支援愛国民主運動連合会)と、同会の前主席・李卓人氏、前副主席・鄒幸彤氏の3者について、香港国家安全維持法(国安法、National Security Law)が定める「他人を煽動して国家政権の転覆を図った罪」(煽動他人顛覆国家政権罪)で有罪と認定しました。香港政府の発表によると、法廷は同日、案件を8月28日まで延期しました。星島日報の報道によると、8月28日には被告側による「求情」(情状酌量弁論)の聴取に加え、量刑区分(罪状が重い=禁錮5〜10年か、比較的軽い=禁錮5年以下か)についての裁定も行われる予定です。具体的な刑期がいつ確定するかは、本稿執筆時点(2026年8月24日)でいずれの出典にも明記されていません。
何が「煽動」と判断されたのか
審理は国家安全法の指定裁判官3名(李運騰・黎婉姫・陳仲衡の各裁判官)による合議体で行われ、陪審員は用いられませんでした(国家安全法にもとづく裁判はこの方式をとります)。審理は2026年1月に始まり、同年5月19日に結審しています。
対象となったのは、国安法施行後の2020年7月1日から2021年9月8日までの、支聯會による活動と言論です。中心的な争点は、支聯會が長年掲げてきた「五大綱領」でした。そこに含まれる「一党独裁を終わらせる(結束一党専政)」といった主張は、中国共産党の指導と憲法上の国家の根本制度を否定するものであり、これを団体として発信し続けたことが他人を煽動して国家政権の転覆を図る行為にあたる、と裁判所は判断しました。
これに対し李卓人氏は、HK01の報道によると法廷で、「結束一党専政(一党独裁の終焉)」というスローガンが「中国共産党の指導的地位を終わらせること」と同じ意味だという見方を否定し、これは中国の民主化への第一歩を求めるものであって、共産党が最終的に指導的立場を保つべきかどうかは中国本土の人民が決めることだと主張しました。一方、鄒幸彤氏は、支聯會が「結束一党専政」を掲げたのは政権を人民に返す(還政於民)ことを望んだためであり、支聯會は30年以上にわたり暴力の使用を明確に拒否し、集会・デモ・示威行進など合法的な手段による平和的な抗争を訴えてきたと強調しました。両氏の主張にもかかわらず、裁判所は被告らが後には引かず自らの立場を貫いたと判断し、有罪と結論づけました。
なお、前副主席の何俊仁氏は公判開始前に罪を認め、有罪と認定されています。ただし同氏についても量刑はこれからで、今回の判決の対象には含まれていません。
8月28日に予定されていること
香港の刑事手続きでは、有罪が認定された後に被告側が量刑を軽くすべき事情を述べる「求情」(mitigation、情状酌量弁論)の手続きがあります。香港政府の公表資料でも「法庭押後案件至八月二十八日,以聽取求情」(法廷は案件を8月28日まで延期し、求情を聴取する)と記されています。
星島日報の報道によると、法廷は8月28日、この求情を聴いたうえで、量刑区分についても裁定する予定です。国安法上、「罪行嚴重」(罪状が重い)と認定されれば禁錮5年以上10年以下、「罪行較輕」(罪状が比較的軽い)と認定されれば禁錮(有期徒刑)5年以下、または拘役・管制が科されます。
どちらの区分になるかは8月28日の審理で判断される見通しですが、その範囲内での具体的な刑期の年数がいつ、どのような手続きで確定するかについては、本稿執筆時点(2026年8月24日)でいずれの出典にも明記がありません。手続きの詳しい進行は、香港政府の公式発表で確認してください。
李卓人氏と鄒幸彤氏は、有罪認定後も収監(還押)が続いています。
背景:支聯會とはどんな団体だったか
支聯會は1989年、中国の民主化運動(のちの天安門事件)をきっかけに発足し、以後、毎年6月4日にビクトリアパークで追悼集会を主催してきた香港の代表的な民主派団体です。香港政府新聞網(news.gov.hk)によると、国安法は2020年6月30日に公布され、即日施行されました。同法は国家政権の転覆やその煽動、外部勢力との結託などを新たに処罰対象としており、今回の起訴対象期間(2020年7月1日〜2021年9月8日)は、その施行の翌日から始まっています。支聯會は2021年9月に解散しています。
今回の判決は、その解散前の団体としての活動と言論が国安法の適用対象になるかどうかを、裁判所が具体的な事実に即して判断した事案にあたります。
香港で働く人・日系企業にとっての読みどころ
支聯會・李卓人氏・鄒幸彤氏に対する今回の判決は、団体としての主張の継続的な発信が国安法の「煽動」罪にどう適用されるかを示した事案です。香港で事業や生活を営むうえでの法的環境を理解する材料として、事実関係を正確に押さえておく意味があります。
実務の場面で判断が求められやすいのは、社名・個人名での対外発信やSNS投稿、現地の団体・イベントへの寄付や協賛、集会への関与といった局面でしょう。ただし個別のケースが問題になるかどうかは事実関係次第で、今回の判決から一般的な線引きを導けるわけではありません。判断に迷う事案があれば、香港の法律専門家に個別に確認するのが確実です。
まとめ
- 2026年8月21日、香港高等法院原訟法庭が支聯會・李卓人氏・鄒幸彤氏の3者に「煽動他人顛覆国家政権」罪で有罪を認定しました。
- 8月28日には、被告側による求情(情状酌量弁論)の聴取に加え、量刑区分(罪状が重い=禁錮5〜10年か、比較的軽い=禁錮5年以下か)についての裁定も行われる予定です。
- 具体的な刑期がいつ確定するかは、本稿執筆時点(2026年8月24日)で公式に明らかにされていません。手続きの進行や日程は変わりうるため、最新の情報は香港政府の公式発表で確認してください。
出典
- 香港政府新聞公報:原訟法庭就「支聯會煽動顛覆國家政權」案的定罪裁決(2026年8月21日発表/閲覧日:2026年8月24日)
- 〔巴士的報(Bastille Post)〕支聯會顛覆案|法官裁定支聯會、李卓人及鄒幸彤煽動顛覆國家政權罪名成立(2026年8月21日付/閲覧日:2026年8月24日)
- 香港政府新聞網:港區國安法刊憲 即時生效(2020年6月30日発表/閲覧日:2026年8月24日)
- 〔星島日報(stheadline)〕支联会、李卓人与邹幸彤煽动颠覆国家政权罪成 续还押至8.28求情(2026年8月21日付/閲覧日:2026年8月24日)
- 〔HK01〕支聯會案|李卓人鄒幸彤罪成 官斥拒懸崖勒馬一意孤行抗爭立場(2026年8月21日付/閲覧日:2026年8月24日)

