【ニュースの要点】
香港政府が、高齢者の介護にあたる外国人材を新たに受け入れる方向に動き出しました。2026年9月16日に発表された行政長官の施政報告(Policy Address=毎年の施政方針演説)に、現行の外国人家事使用人(外籍家庭傭工、Foreign Domestic Helper。香港では「外傭」と呼ばれます)の受け入れ制度を参考に、高齢者介護でより高度な訓練と経験を持つ「外籍家居照顧員(foreign domestic carers)」=外国人の在宅介護員を試行的に受け入れる、と明記されました。
続く9月18日には、孫玉菡・労働福祉局(勞工及福利局、Labour and Welfare Bureau)局長が初期構想を説明しています。賃金は現在の外傭の給与の起点より1〜2割高くなる見込み、母国での高齢者介護の経験3年以上と、母国で受ける「香港政府が認証した研修」の修了を要件案として挙げ、試行段階では当面、定員を設ける考えは無いとしました。RTHKは開始時期を「来年」と報じており、2027年の見通しです(いずれも2026年9月18日時点の説明)。
ただし、賃金・要件・定員・開始時期は施政報告の本文には書かれておらず、局長が示した初期構想の段階です。現在の外傭の契約や雇用条件に直ちに影響する内容は、今回確認できた公式・大手報道の範囲では見当たりません。
施政報告で決まっているのは「試行的に受け入れる」方針まで
施政報告2026の該当箇所(英語版第395段)は2文だけで、「現行の外傭受け入れ制度を参考に(With reference to the existing regime…)、高齢者介護でより高度な訓練と経験を持つ外国人家居照顧員を試行的に受け入れる。これは在宅で暮らす高齢者の介護ニーズに応える助けになる」という趣旨です。賃金・経験年数・定員・開始時期の記載はありません(2026年9月の施政報告全文で確認)。
注意したいのは「参考に」という書き方です。現行の外傭制度と同じ枠組みになると決まったわけではなく、住み込みの要否や雇用主側の条件、費用、申請手続きといった詳細は、今回確認できた出典には示されていません。
9月18日に局長が示した初期構想
以下はすべて2026年9月18日の孫玉菡局長の説明として、各社が報じた内容です。
賃金:星島日報が伝えた発言では、「初步構思(初期構想)」「薪酬估計(賃金の見込み)」として、現在の外傭の給与の起点より1〜2割高い水準になる見込みとされています。RTHKは「現在の外傭より10〜20%多く得られ得る(could earn)」と報じています。なお星島日報は同じ記事の中で「薪酬起點(給与の起点)」と「薪酬下限(賃金の下限)」の両方の表現を用い、HK01とi-CABLEは「最低賃金が外傭より1〜2割高い」と要約しています。表現には揺れがありますが、いずれも外傭の賃金の下限を基準とする趣旨と読めます。公式の金額発表は確認できていません。
参考までに、外傭の規定最低工資(prescribed minimum allowable wage=政府が定める最低の月給)は、2025年9月30日以降の新規契約に適用される月5,100香港ドルです(2025年9月の政府公報)。SCMP(2026年9月19日)も、現行の外傭の最低許可賃金を月5,100香港ドルと記述しています。ただし政府が定期的に見直す水準のため、最新は公式でご確認ください。
要件案:母国での高齢者介護の経験3年以上と、母国で受ける「香港政府が認証した研修」の修了です(星島日報「在當地接受已獲港府認證的培訓」、HK01「在原居地接受經香港認證的培訓」、SCMP「elderly care training recognised by Hong Kong」)。研修水準は、香港の入所型高齢者介護施設(院舍、residential care home)に配置される「保健員(health worker)」という職種とおおむね同等にする意図とされています(RTHK、星島日報)。なお、この保健員と日本の介護福祉士や看護師といった資格との対応関係は、今回確認できた出典には示されていません。
定員:試行段階では当面、定員の設定は考えていないと説明しています(星島日報「暫時不考慮」、RTHK「does not intend to impose a quota」)。定員を設けないと確定したわけではない点に注意が必要です。
業務範囲:RTHKは、調理など他の家事も担うと報じています(他の大手報道では確認できていません)。
現職の外傭が転換する場合:RTHKによると、いったん母国に帰国して必要な研修を修了し、資格要件を満たしたうえで香港に戻って働く必要があります。i-CABLEによれば局長は、雇用主のもとを離れて長期の研修を受け、再び雇用主を探して来港するのはコストが高いとして、現行の外傭市場に大きな影響は出ないとの見方を示しました(星島日報「不會帶來太大衝擊」)。
香港で暮らす日本人世帯にとっての意味
高齢の家族と香港で同居している世帯や、今後在宅介護が必要になりうる世帯にとっては、「介護の訓練と経験を持つ人材を選べるようになるかもしれない」という将来の選択肢が示された形です。局長は、一般の外傭で足りる家庭は現行のまま、より高い介護力を求める家庭は外籍家居照顧員を選べるようにする、と説明しています。
雇用コストの面では、外傭より1〜2割高い水準という目安が比較材料になります。ただし基準も金額も未確定で、費用・手続き・雇用主側の条件も今後の発表待ちです。今の契約を見直したり、何かを申請したりする段階ではありません。
背景と反応
香港では高齢化が急速に進んでいます。SCMPの報道によると、65歳以上の人口は2025年の約180万人から2046年には274万人に増えると推計されています。香港で働く外傭は、2026年9月の報道時点で約38万人と報じられています。RTHKによれば局長は、送り出し国側との協議から、外傭としての就労には消極的でも、専門職の肩書と高い賃金であれば魅力を感じうる有能な若者が多いことが分かった、とも述べています。
一方で懸念も出ています。SCMP(2026年9月19日)によると、外傭を雇う家庭の団体は、外傭の3割はすでに高齢者の世話をしているとして別区分を設ける必要性に疑問を呈し、この制度が賃金を押し上げ、低所得の高齢者に介護が届きにくくなる可能性を警告しました。団体側の主張であり、政府の見解でも確定した影響でもありません。
まとめ
確定しているのは「試行的に受け入れる」という方針までで、賃金・要件・定員・開始時期は局長の初期構想の段階です。開始は2027年の見通しとされますが月日は示されておらず、詳細は今後の発表を待つことになります。賃金水準や手続き、外傭の最低工資などは変動する情報です。最新の内容は労工処(Labour Department)・入境事務処(Immigration Department)など公式の発表で必ずご確認ください。
出典
- 行政長官「2026年施政報告」全文(英語版PDF、第395段)(2026年9月21日閲覧)
- 香港政府公報:外国人家事使用人の規定最低工資の調整(2025年9月29日発表)(2026年9月21日閲覧)
- 〔RTHK〕HK to pilot foreign domestic carers with higher pay(2026年9月18日)(2026年9月21日閲覧)
- 〔星島日報〕外籍家居照顧員の試行受け入れに関する孫玉菡局長の説明(2026年9月18日付記事)(2026年9月21日閲覧)
- 〔HK01〕外籍家居照顧員の要件・賃金に関する報道(2026年9月18日付記事)(2026年9月21日閲覧)
- 〔i-CABLE〕孫玉菡局長の賃金水準に関する説明(2026年9月18日付記事)(2026年9月21日閲覧)
- 〔i-CABLE〕現職の外傭が転換する場合の手続きに関する報道(2026年9月18日付記事)(2026年9月21日閲覧)
- 〔SCMP〕賃金・要件と高齢化の背景に関する報道(2026年9月18日付記事)(2026年9月21日閲覧)
- 〔SCMP〕雇用者団体の懸念に関する報道(2026年9月19日付記事)(2026年9月21日閲覧)

