【ニュースの要点】
- 何が:香港政府が、域外(外国人)労働者の輸入制度である強化補充労働計画(Enhanced Supplementary Labour Scheme, ESLS)の審査を2段階(ティア制)に再編。飲食・飲料サービス業(F&B)を最も厳しい「ティア2」に指定し、採用要件を厳格化しました。
- いつ:2026年6月16日施行(同日以降に発行される案件から適用)。
- どこ発表か:香港政府新聞公報(info.gov.hk、2026年6月15日発表)。
- 主な変更:飲食業の調理・接客職について、現地正社員:域外労働者の比率を2:1から3:1へ、現地採用活動期間を4週間から6週間へ引き上げ。さらに採用期間中、2週間ごとに労工処(Labour Department)指定の就職フェア等への対面参加が義務化されました(香港政府新聞公報、2026年6月時点)。
香港で飲食店・カフェ・ケータリングを営む日系企業の人事・総務にとっては、外国人労働者の採用計画とコンプライアンスの即時見直しが必要になる改定です。一方で、専門職ビザで赴任する駐在員個人への直接の影響は基本的にありません。以下、要点を整理します。
ニュースの概要
ESLSは、香港の人手不足業種に域外(外国人)労働者の輸入を認める制度です。今回の見直しで、審査が次の2段階に再編されました(香港政府新聞公報、2026年6月時点)。
ティア1(基本審査)
従来どおりの要件です。現地正社員:域外労働者の比率は2:1、現地での採用活動期間は4週間。飲食以外の業種が該当します。
ティア2(厳格審査・飲食業に新設適用)
飲食・飲料サービス業の調理・接客職に新たに適用される厳格な区分です。対象職種は、料理人・見習い料理人・焼味料理人・ドリンク係・バー主任・ウェイター/ウェイトレス・レストラン主任・受付・レジ係などとされています。主な変更点は以下のとおりです(香港政府新聞公報、2026年6月時点)。
- 比率の引き上げ:現地正社員:域外労働者が2:1から3:1へ。現地正社員3人につき域外労働者1人までとなります。
- 採用活動期間の延長:現地での採用活動が4週間から6週間へ。
- 就職フェア参加の義務化:採用期間中、2週間ごとに労工処指定の就職フェア/雇用センターでの対面面接に参加することが必須となりました。不参加の場合は申請が認められないことがあるとされています(〔Human Resources Online〕報道)。
- 宿泊費控除の拡大:雇用主が宿泊を提供する場合の賃金からの控除上限が、賃金(残業代を除く)の10%から20%へ(または実際の宿泊費のいずれか低い方)。
- 勤務地の柔軟化:域外労働者の勤務地を最大5つの行政区(18区中)にまたがって指定可能に。
- 制裁の強化:複数の違反があった雇用主は最長5年のESLS利用禁止となり、行政制裁を受けた全雇用主の社名が労工処により公表されます。
適用範囲は、2026年6月16日以降に事前審査通知(preliminary screening notice)または原則承認(Approval-in-Principle, AIP)が発行される案件からです。それ以前の既承認案件には遡及しません(香港政府新聞公報、2026年6月時点)。
なお、ESLSで承認された域外労働者は2026年2月時点で約10万2,000人、うち飲食業が最多で約4万2,000人にのぼると〔Hong Kong Free Press〕が報じています(公式統計での裏取りは未了の参考値)。また、現地の障害者を雇用する場合は、その比率を1:1で計算する優遇措置も設けられています(香港政府新聞公報、2026年6月時点)。
対象読者:誰に影響するか
駐在員個人・帯同家族(直接影響は限定的)
駐在員の多くは、一般雇用政策(General Employment Policy, GEP)などの専門職枠の就労ビザで在留しています。ESLSは飲食等の非専門職を域外から輸入するための制度であり、駐在員のビザ・在留資格・更新条件は本改定の対象外です。個人として今すぐ取るべき手続きは基本的になく、過度な不安は不要です。
ただし間接的には、飲食・サービス業の人手確保が厳しくなることで、店舗の人員体制やサービス水準、ひいては外食価格に中期的な影響が及ぶ可能性があります(程度は未確定)。生活情報として認識しておく程度でよいでしょう。
日系企業(飲食・F&B事業者は直撃)
香港で飲食店・カフェ・居酒屋・ホテル内レストラン・ケータリング・社員食堂運営などを手がける日系企業の人事・総務が、今回の改定の直撃対象です。F&Bの調理・接客職で域外労働者を使う、または使う予定がある場合、ティア2の厳格要件が即時に適用されます。
背景:現地雇用の保護へ振れた局面
今回の見直しの主目的は、現地雇用の保護です。香港政府の労働福利局長は、域外労働者の輸入と現地優先のバランスを取り、特に現地労働者を優先することが新制度の趣旨だと説明しています(香港政府新聞公報、2026年6月時点)。
ESLSは人手不足業種への対応として拡大してきましたが、現地従業員の解雇・置き換えへの懸念や苦情の増加を受け、最も利用の多い飲食業を最初のティア2対象として絞り込んだ流れです。香港の域外労働者受け入れ政策は、人手不足対応(拡大)と現地雇用保護(規制強化)の綱引きの中にあり、今回は保護強化に振れた局面といえます。
今すべきアクション
個人向け
- 専門職ビザの駐在員個人のビザ・在留には影響しないため、今すぐ取るべき手続きは基本的にありません。
- 飲食・サービス業の人手やサービス体制が中期的に変わり得る点を、生活情報として把握しておきましょう。
- 家族や知人が香港の飲食・サービス業で域外労働者として就労している/検討している場合は、雇用主側の申請条件が変わった点を共有し、雇用主や専門家への個別確認を促してください。
企業向け(飲食・F&B事業者は優先度高)
すでに6月16日に施行済みである点を前提に、以下を進めてください。
- 利用状況の棚卸し:飲食・F&B事業を持つ拠点で、自社のESLS利用状況(申請中・予定・既承認)を即時に確認します。
- 適用ルールの特定:申請中/今後申請する案件は、原則承認(AIP)・事前審査通知の発行日が2026年6月16日より前か後かを確認し、旧要件(2:1/4週間)か新要件(3:1/6週間+フェア参加義務)かを特定します。境界線上の案件は早急に確認しましょう。
- 要員計画の再計算:ティア2対象職種で域外労働者を使う計画なら、3:1比率を満たす現地正社員数を確保できるか試算し、不足するなら現地採用の前倒しや採用予算の見直しを行います。
- 採用スケジュールと証跡管理:6週間の現地採用活動と、2週間ごとの就職フェア/雇用センター面接参加をスケジュールに組み込み、参加実績の記録・証跡を保全する担当と運用を決めます(不参加は却下リスク)。
- 宿泊費・賃金設計の見直し:寮・社宅を提供する場合は、宿泊費控除(賃金の最大20%・実費の低い方)に合わせて賃金控除・住居費按分の設計や労働契約・賃金明細を見直します。該当職位の月収中央値以上の賃金支払いが必要な点も再確認しましょう。
- コンプライアンス徹底:社名公表・最長5年の利用禁止という制裁強化を踏まえ、現地従業員の解雇と域外労働者採用が「置き換え」と見なされないよう、採用・解雇プロセスの文書化と社内チェックを徹底します。
- 配置の最適化:複数店舗を運営する場合は、最大5行政区にまたがる勤務地指定の柔軟化を活かした配置最適化を検討できます。
まとめ
本改定はすでに2026年6月16日に施行されており、香港で飲食・F&B事業を営む日系企業にとっては「これから対応」ではなく「すでに適用済み」の案件です。一方、専門職ビザの駐在員個人への直接影響は基本的にありません。比率・採用活動期間・控除上限などの数値や適用ティアの判定は運用の余地があるため、最新の内容と個社への適用は必ず香港政府の公式情報および労工処で要確認のうえ進めてください。
本記事は一般的な情報であり、個別の案件(適用ティアの判定、宿泊費控除の設計、労働契約の条項など)は専門家にご相談ください。
出典
- 香港政府新聞公報:ESLS見直し結果と強化措置の発表(info.gov.hk、2026年6月15日)(閲覧日:2026年6月26日)
- 香港政府新聞公報:労働福利局長のメディア対応発言(info.gov.hk、2026年6月20日)(閲覧日:2026年6月26日)
- 〔JETRO(日本貿易振興機構)〕域外労働者受け入れに最適化措置を導入、一部職種の採用要件を厳格化(香港)(閲覧日:2026年6月26日)
- 〔Human Resources Online〕Hong Kong’s enhanced ESLS scheme from 16 June 2026: Tiered mechanism for local vs foreign labour(閲覧日:2026年6月26日)
- 〔Hong Kong Free Press〕Hong Kong tightens labour import scheme rules for catering industry(閲覧日:2026年6月26日)

