社会

香港ヘルパーの最低賃金(MAW)、雇用主団体が2026年の据え置きを請願

香港で外国人家事労働者(Foreign Domestic Helper、いわゆるヘルパー・外傭)を雇うときの給与の下限にあたる「最低許容賃金」(Minimum Allowable Wage、MAW)について、雇用主団体が2026年8月8日、労工処(Labour Department)などに2026年の改定凍結を求める請願を行いました。一方、家事労働者側の労働組合は7月の政府協議で月5,100HKDから6,670HKDへの引き上げ(約30%増)を求めており、労使の主張が正面からぶつかっています。

MAWの改定額は例年9月下旬に発表され、その翌日以降に署名された契約から適用されてきました。2026年秋にヘルパーの契約更新や新規採用を予定しているなら、「いつ署名するか」がその後2年間の人件費を左右します。ただし2026年の改定内容も発表日も、2026年8月14日時点では決まっていません。

何が争われているのか

雇用主側:改定の「全面凍結」を要求

2026年8月8日、国際家政服務業持続発展聯会(International Domestic Service Industry Development Federation)と国際政商労資事務和諧関愛会(Quadripartite Alliance for Harmonious Employment Practices)を中心とする雇用主団体の代表約30人が、MAWと食事手当の据え置きを求める請願書を提出しました。根拠に挙げたのは、2022年から2025年までの3年間でMAWが累計7.8%上がり、同期間の総合消費者物価指数(CPI)上昇率5.4%を上回っている点です。

団体はあわせて、7月に自ら実施した雇用主6,200世帯超への調査結果として、97.8%が「凍結または引き下げ」を望み、84%が「これ以上の引き上げは負担できないおそれがあり、引き上げが決まれば解雇も検討し得る」と回答したと発表しました(南華早報〈South China Morning Post〉・文匯報の報道)。ただし調査方法や標本の抽出は公表されておらず、報道によって「97.8%」「97%超」と数字の示し方にも差があります。当事者の主張として距離を置いて読む数字です。

労働者側:「引き上げがインフレに追いついたことはない」

これに対し、アジア系家事労働者の労組連合体FADWU(Hong Kong Federation of Asian Domestic Workers Unions)は、2026年7月5日の労工処との協議で、MAWを月5,100HKDから6,670HKDへ、食事手当を月1,236HKDから2,770HKDへ引き上げるよう要求しました。同じ協議に出た別の団体AMCB(Asian Migrant Coordinating Body)はMAW月6,172HKDを求めており、労働者側の要求額にも幅があります。FADWUは8月11日に凍結要求へ反論し、「引き上げがインフレに追いついたことは一度もなく、実質賃金は何年も下がり続けている」と述べました。

なお7月の協議は意見を聴く場で、政府の判断を示すものではありません。2026年8月14日時点で、労工処が改定の方向性を示した公式発表は確認できていません。

実務でいちばん大事なのは「契約に署名した日」

MAWは、外国人家事労働者を雇う際に義務づけられた標準雇用契約(Standard Employment Contract、書式ID 407)に紐づく下限額で、香港の一般の法定最低賃金(時給制)とは別建ての制度です。政府は毎年、経済・労働市場の状況、短期の経済見通し、雇用主の支払い能力、家事労働者の基本的な生活需要などを総合して見直すと説明しています。

2026年8月14日時点の現行額は次のとおりです(2025年9月29日発表)。

  • MAW:月5,100HKD以上(前額4,990HKDから+2.2%)
  • 食事手当:雇用主が無償で食事を提供しない場合、月1,236HKD以上(2023年の引き上げ以降、2年連続で据え置き)

食事手当は「現物で食事を出していれば支払い不要」という条件付きの金額です。

そして最も重要なのが、これらの額が「2025年9月30日以降に署名された雇用契約」に適用されるという点です。改定は既存の契約にさかのぼりません。すでに有効な契約があるなら、9月に新しい金額が出ても契約期間中の支払額が自動的に上がることはなく、慌てて結び直す必要もありません。影響を受けるのは、発表日以降に新しく署名する契約=新規採用と契約更新だけです。

過去の改定幅は「据え置き〜+3.0%」

  • 2020年・2021年:MAW据え置き(月4,630HKD)※2021年は食事手当のみ月1,121→1,173HKDに引き上げ
  • 2022年:+2.2%(月4,730HKD)
  • 2023年:+3.0%(月4,870HKD)
  • 2024年:+2.5%(月4,990HKD)
  • 2025年:+2.2%(月5,100HKD)

直近6年の改定幅はこの範囲に収まり、新型コロナ禍にはMAWが2年続けて据え置かれた前例があります。雇用主団体が求める凍結は制度上ありえない要求ではありませんが、近年は小幅ながら毎年の引き上げが続いており、2026年がどちらに振れるかは読めません。発表時期も、2025年は9月29日発表・30日適用、2024年は9月27日発表・28日適用と9月下旬に集中してきました(2021年・2022年は9月30日発表・10月1日適用)。これは過去の運用パターンであり、2026年も同じ日程になる保証はありません。

秋に契約を控えているなら、いま準備できること

  • 署名予定日を洗い出す:秋に更新・新規締結の予定があるなら、署名日が発表日の前か後かで、その後2年間(標準雇用契約は原則2年)の下限額が変わります。確定情報が出るまでは日程だけ押さえておけば十分です。
  • 発表前に署名するなら提出期限に注意:旧額で署名した契約には、入境事務処(Immigration Department)への提出に猶予が設けられてきました(2025年は10月27日まで、2024年は10月25日まで=おおむね4週間)。2026年の期限は政府発表時に示される見込みです。
  • 金額は公式で確認する:代理店や口コミではなく、香港政府新聞公報と労工処の外国人家事労働者専用サイトで最終的な数字を確かめます。
  • 更新の機会に雇用主側の義務を点検する:標準雇用契約では、MAW以上の給与に加えて、無償で相応のプライバシーが保たれる住居、無償の食事(提供しない場合は食事手当)、無料の医療、帰国旅費の負担、雇用条例(Employment Ordinance)に基づく法定休日・週1日の休息日・年次有給休暇7〜14日が求められます。雇用主の資格要件として、ヘルパー1人につき世帯月収15,000HKD以上(または同等額の資産)も必要です。

まとめ

2026年8月14日時点で確定しているのは、現行のMAWが月5,100HKD、食事手当が条件付きで月1,236HKD以上であり、いずれも2025年9月30日以降に署名された契約に適用されている、という事実です。今回の請願も労組の要求も、9月に向けて主張が出そろった段階にすぎません。既存契約は影響を受けず、判断が必要なのは秋に署名する契約だけ——ここを押さえておけば、発表が出たときに自分で読み解けます。金額も提出期限も毎年変わるため、最新の数字と日程は必ず公式で確認してください。

出典

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