香港政府の屋宇署(Buildings Department、建物の安全を所管する部門)は2026年10月3日、報道を受けて、香港島南部・赤柱(スタンレー)の住宅「One Stanley」の一戸建て1戸で、図面どおりに施工されていない箇所を確認したと発表しました。屋宇署は「明らかな危険は構成していない」としつつ、施工品質には注意と追跡が必要だとして調査を続けています。違反があったかどうかは、2026年10月7日時点でまだ確定していません。
この件を受けて、李家超(ジョン・リー)行政長官は10月6日、発展局(Development Bureau、建築・都市開発の政策を担う部局)に調査の監督を求め、違反があれば厳しく処罰する考えを示しました。屋宇署の発表によると、発展局は年末に建築物条例(Buildings Ordinance)の改正案を立法会(Legislative Council、香港の議会)へ提出する際、関連する条文の罰則も引き上げるとしています。
屋宇署が確認したこと(2026年10月3日発表)
屋宇署の発表による経緯は次のとおりです。
- 2023年7月:この一戸建てに入居許可証(occupation permit。完成した建物の入居・使用を認める許可で、現地では「入伙紙」と呼ばれます)が発給される
- 2026年1月:購入後に内装工事を進めていた所有者の代理人から、床スラブ(床を支える構造部分)の構造安全について屋宇署に通報
- 2026年3月:屋宇署が現地を視察し、「建物全体の構造に明らかな危険はない」としたうえで調査を開始
- 2026年6〜9月:現地で複数回、試験・検査を実施(コンクリート表面の反発硬度試験、鉄筋のかぶり厚さの測定、レーダー探査、コアを抜き取っての圧縮試験、コンクリートを削って内部を確かめる「はつり」調査)。現在はデータを分析中
このほか屋宇署は調査の中で、登録構造エンジニアに対し、報告書や材料試験の報告書・証明書を含む関連資料の提出を書面で求めています。
屋宇署が発表で挙げた発見は次のとおりです。
- 低層部の横梁(はり)1本で、かぶり部分(鉄筋を覆うコンクリートの層)に図面どおりのワイヤーメッシュ(補強用の金網)が配置されていなかった
- 一部の床スラブで、鉄筋の配置が図面と合っていなかった
屋宇署はこれらについて「明らかな危険は構成していない」としたうえで、施工品質は注意と追跡が必要であり、さらに調査するとしています。また、認可人士(Authorized Person。建築工事の設計・監理を担う登録建築専門家)、登録構造エンジニア、登録施工業者、デベロッパーに対し、書面で面談と資料提供を求めています。調査で違反が確認された場合は、建築の専門家や施工業者に対して起訴、または懲戒処分の手続き(あるいはその両方)を進めるとしています。
なお、香港の英字報道機関HKFP(Hong Kong Free Press)によると、現在の所有者はこの物件を2024年4月に1億1,500万香港ドルで購入したとされます。
行政長官「違反があれば厳罰」、発展局に調査の監督を指示
李家超行政長官は10月6日(火)、行政会議(Executive Council。行政長官の政策決定を補佐する機関)の前の発言で、「香港の建築工事の施工品質を非常に重視している」と述べました。報道によると、行政長官は建築の専門家が監督の責任を果たしたか、施工業者が規定を守ったかに関心を示したうえで、発展局に調査の監督を要請。違反があれば厳格に法を執行し、強い抑止力を確保して関係者を厳しく処罰するとしました。あわせて、発展局が年内に建築物条例の改正案を立法会に提出し、専門家の職務上の不適切な行為や基準を満たさない施工に対する罰則を引き上げる考えも示しています。
条例改正は2024年から進む既存の案
建築物条例の改正そのものは、今回の事案を機に新たに打ち出されたものではありません。発展局は2024年12月13日に改正の提案を示し、同年12月31日から2025年2月28日まで2か月間、公衆諮詢(市民や業界から意見を募る手続き)を実施しました。当時の目標は「2026年上半期に条例草案を立法会へ提出する」というもので、罰則の引き上げもその時点の案に含まれていました。
今回の新しい点は、One Stanleyの事案を受けて行政長官が発展局に調査の監督を指示し、改正案を年内に提出することと罰則の引き上げをあらためて示したことです。提出時期は、当初目標だった2026年上半期より後ろになります。どの条文の罰則をどの程度引き上げるのかは、提出される改正案で確認する必要があります。
HKFPは今回の件を、クイーンメアリー病院(瑪麗醫院)のエレベーターをめぐる問題や、東涌(トンチョン)の公営住宅でのコンクリート検査の不合格と並べ、建設をめぐる問題が相次ぐ中での動きとして報じています。これらは本記事では詳しく扱いません。
在住者・企業にとっての読みどころ
- 対象は特定の1戸:今回の屋宇署の発表は、One Stanleyの一戸建て1戸を対象としたものです。屋宇署の評価は2026年10月時点で「明らかな危険は構成していない」ですが、調査は継続中で、最終的な結論が出たわけではありません。
- 通報が調査の起点:所有者側が内装工事中に屋宇署へ寄せた通報が、試験・検査を伴う調査につながりました。
- 建設・不動産関連の企業は改正案に注目:香港で開発・設計・施工に関わる日系企業にとっては、建築の専門家や施工業者の責任を問う姿勢が政府トップから示された点がポイントです。年末に提出される予定の改正案で、罰則の対象や水準を確認しておくとよいでしょう。
まとめ
屋宇署は赤柱One Stanleyの一戸建てで、横梁のワイヤーメッシュが図面どおりに配置されていない点と、一部の床スラブで鉄筋の配置が図面と合わない点を確認しました(2026年10月3日発表)。現時点の評価は「明らかな危険は構成していない」で、違反の有無や責任の所在はデータ分析を含む調査の結果を待つ段階です。行政長官は違反があれば厳罰とする考えを示し、建築物条例の改正案は年末に立法会へ提出して罰則を引き上げる方針とされていますが、提出日や成立時期は公表されていません。
調査の進展や改正案の内容は今後変わる可能性があります。最新は屋宇署・発展局の公式発表で要確認です。
出典
- 香港政府新聞公報:屋宇署による赤柱の一戸建てに関する発表(2026年10月3日)(2026年10月7日閲覧)
- 香港政府新聞公報:行政長官の行政会議前の記者会見記録(2026年10月6日)(2026年10月7日閲覧)
- 香港政府新聞公報:建築物条例の改正に関する発表(2024年12月31日)(2026年10月7日閲覧)
- 香港政府新聞公報:建築物条例の改正に関する発表(2024年12月13日)(2026年10月7日閲覧)
- 〔Hong Kong Free Press〕Hong Kong leader vows ‘severe’ punishment following string of construction scandals(2026年10月7日閲覧)
- 〔RTHK〕Govt to enforce law strictly over One Stanley case(2026年10月7日閲覧)

