【ニュースの要点】
香港の退職積立制度である強積金(強制性公積金、Mandatory Provident Fund=MPF)の引き出し手続きが、2026年7月末から変わります。強制性公積金計劃管理局(Mandatory Provident Fund Schemes Authority=積金局、MPFA)の劉麥嘉軒主席が2026年7月26日付のブログで公表したもので、共通プラットフォーム「積金易(eMPF Platform)」に提出する引き出し(提取)申請には、デジタルID「智方便(iAM Smart)」による多重身分認証(step-up authentication)とリアルタイム顔認証(即時容貌辨識)の完了が必要になります。公式の表記は「7月末から」で、具体的な開始日は2026年7月時点では公表されていません。
帰任・退職で香港を離れるとき、MPFを受け取るにはスマートフォンの智方便アプリでその場で顔を照合する必要がある——これが実務上の意味です。智方便は香港身分証(Hong Kong Identity Card、HKIC)を前提としたデジタルIDで、公式サイトが案内する登録拠点は香港・広東省・マカオに限られます。「出国してから落ち着いて手続きすればいい」という感覚のままだと、口座に資金を残したまま身動きが取れなくなりかねません。
何が必須になり、何が対象外なのか
積金局の発表(2026年7月26日)によると、対象は5,000香港ドル以下の少額残高を理由とする申請と死亡を理由とする請求を除く、すべての引き出し申請です。早期引き出しだけでなく、65歳到達による通常の受け取りも含まれる点は見落としやすいところです。なお、少額残高による引き出しには別途要件(最後の拠出から12カ月以上経過など)があり、今回の除外は智方便認証に限った話です。
もうひとつ重要なのが、積金易の登録時にすでに智方便で本人確認を済ませている人でも、申請を出す時点で改めて認証をやり直す必要があるという点です。認証を通過した後、引き出し理由に応じた証明書類を積金易経由で提出し、受託人(trustee)の審査を経て支払われるという書類要件は従来どおりです。積金局は、個別の特殊なケースでは詳細な確認と評価が必要になり、処理時間が長くなるのは避けられないとしています。
積金易の移行スケジュール(2026年7月27日更新時点)では、2026年4月30日を最後に全計画が移行を終えており、実質的にほぼすべての加入者が今回の運用の対象になります。
永久離港での引き出しは生涯1回限り
永久離港(permanent departure from Hong Kong)を理由とする引き出しには、認証とは別の書類要件が従来からあります。積金局の公式説明では、就業や再定住のために香港へ戻る意思がない旨の法定宣誓書(statutory declaration)と、香港域外に居住することが認められていると受託人が納得できる書面証明の両方が必要です。
注意したいのは、この理由での引き出しが生涯1回限りだという点です。積金局は、過去にこの理由で受け取った人には、より新しい離港日で再申請しても支払わないと明記しています。香港に戻る可能性が残っているなら、申請のタイミングは慎重に決めたいところです。
背景:偽造身分証によるなりすましと不正な勧誘
積金局が理由に挙げているのは、早期引き出し制度の濫用が個別に確認されていることです。虚偽申告や不法な手段による申請、不法分子が加入者をだまして違法な申請へ誘導する行為、精巧に偽造された身分証(假身份證)で65歳以上の加入者になりすまして他人のMPFを引き出す手口が挙げられています。件数や被害額は公表されていません。
対策は今回が初めてではありません。東網(on.cc)の2026年1月25日の報道によると、積金易は同月に電子本人確認(eKYC)による新規登録を停止し、登録を智方便経由に一本化しました。同報道では、eKYCで登録済みの人が引き出しを申請すると積金易から通知が届き、指定された期限までに智方便で追加の本人確認を行う必要があるとされています(期限の具体的な日数は公表資料では確認できていません)。登録段階と申請段階の二段構えで本人確認を固める流れです。
香港を離れる前に確認しておきたいこと
個人がやっておくこと
智方便は在港中に取得・有効化する。 登録には香港身分証が必要で、自助登記機・登記服務櫃檯・流動登記隊の所在地も、智方便公式サイトでは香港・広東省・マカオに限られます。アプリでの自己登録を日本など域外から完了できるかは、2026年7月時点で公式に明記がありません。海外から作れる前提で先送りしないほうが安全です。
端末・電話番号・生体認証の設定を離港後も維持する。 申請時に顔認証をやり直す必要があるため、機種変更や電話番号の解約の順序に注意してください。
自分の登録方法と認証状態を確認する。 過去にeKYCで積金易に登録した人は、申請前に智方便での追加確認を求められる可能性があります。積金易のホットライン(183 2622)や、灣仔・尖沙咀・荃灣の積金易服務中心で問い合わせられます。
オンライン以外を想定するなら事前に確認する。 引き出し申請書は郵送・電子メール・ファクス・服務中心への持参でも受け付けられていますが、紙の申請でも智方便の認証が要るかは公表資料で明示されていません。智方便を持たない人や、すでに離港した人向けの代替手段の有無も今回の資料からは確認できていません。
人事・総務の担当者へ
帰任・退職手続きのチェックリストに「智方便アカウントの有無」「積金易の登録方法」を加え、離任間際ではなく数カ月前に案内する運用にしておくと、駆け込みのトラブルを減らせます。
まとめ
2026年7月末から、積金易に出すMPFの引き出し申請には智方便の多重身分認証とリアルタイム顔認証が必要になります。少額残高(5,000香港ドル以下)と死亡による請求は対象外、65歳到達は対象、永久離港での引き出しは生涯1回限り。この3点を押さえ、香港を離れる前に智方便を用意しておくのが今できる備えです。開始日や運用の細部は今後補足される可能性があるため、最新は積金局・積金易の公式発表でご確認ください。
出典
- 積金局(MPFA)主席ブログ「Stepping up verification to protect scheme members」(2026年7月26日)(2026年7月29日閲覧)
- 積金局(MPFA)主席網誌「加強核實 保障成員」(中文版・2026年7月26日)(2026年7月29日閲覧)
- 積金易(eMPF Platform)最新消息:積金局主席ブログ掲載(2026年7月29日閲覧)
- 積金局(MPFA)「Withdrawal of MPF」(2026年7月29日閲覧)
- 積金局(MPFA)「Early withdrawal of MPF」(2026年7月29日閲覧)
- 積金易(eMPF Platform)会員向けFAQ(2026年7月29日閲覧)
- 積金易(eMPF Platform)お問い合わせ・服務中心一覧(2026年7月29日閲覧)
- 積金易(eMPF Platform)計画の移行スケジュール(2026年7月29日閲覧)
- 智方便(iAM Smart)公式サイト:制度概要(2026年7月29日閲覧)
- 智方便(iAM Smart)公式サイト:登録方法(2026年7月29日閲覧)
- 〔RTHK〕積金局7月底起加強核實提取強積金申請 須經智方便多重身份認證(2026年7月26日)(2026年7月29日閲覧)
- 〔東網(on.cc)〕積金易停用eKYC註冊 提取強積金需額外身份驗證(2026年1月25日)(2026年7月29日閲覧)

