香港・衛生署(Department of Health)は2026年8月5日、市内の複数地区で未登録の薬剤製品の違法な販売・所持を取り締まる行動を実施し、鎮痛効果をうたう未登録の疑いがある製品約100箱を押収したと発表しました。押収品の大半は日本語表示で、香港の薬剤登録番号「HK-XXXXX」の表示がなく、有効成分としてイブプロフェン(ibuprofen)とジヒドロコデイン(dihydrocodeine)を含む疑いがあるとされています。38歳の男性1人が未登録薬剤製品および第1部毒薬(Part 1 poison)の不法所持の疑いで逮捕され、捜査は継続中です。
香港の法令が変わったわけではなく、既存の条例に基づく執行事例です。ただ、日本から常備薬を持ち込む機会の多い在住日本人にとっては、手元の薬がどの線に触れるのかを確かめる機会になります。
摘発は空港ではなく「店頭」 4店舗で約100箱
対象になったのは尖沙咀・銅鑼湾・上水・元朗の4店舗です。内訳は認可薬局(Authorized Seller of Poisons/ASP)1軒、医薬品店(Listed Seller of Poisons/LSP)1軒、一般の小売店2軒で、登録された販売業者の店頭にも未登録の疑いがある製品が置かれていたことになります。空港での個人の手荷物検査ではなく、店舗に対する取締りである点は押さえておきたいところです。
見落とせないのは罪名です。発表によれば、未登録の薬剤製品または第1部毒薬を違法に「販売または所持」することは刑事犯罪で、有罪の場合は各罪につき最高10万HKドルの罰金と禁錮2年が科されます(衛生署、2026年8月時点)。売った側だけの話ではなく、「持っていること(所持・管有)」自体が罪名に含まれています。ただし、自宅で自己使用のために保管している市販薬が実際に立件された運用実態については、公式には確認できません。
香港の薬は3階層 日本の感覚との落差
香港では、薬剤製品は薬剤業及び毒薬管理局(Pharmacy and Poisons Board)に登録されたうえでなければ販売できず、登録済みの製品は包装に「HK-XXXXX」形式の登録番号を表示します(衛生署薬物弁公室〈Drug Office〉、2026年8月時点)。日本語表示であっても香港で登録された製品なら合法に流通しており、「日本の市販薬はすべて違法」という話ではありません。問題になったのは、あくまで香港での登録が確認できない製品です。
さらに、薬剤業及び毒薬条例(Pharmacy and Poisons Ordinance、第138章)のもとで、薬は売れる場所によって大きく3階層に分かれます。
- 非毒薬:一般の小売店でも販売できる
- 第2部毒薬:認可薬局(ASP)または医薬品店(LSP)でのみ販売できる
- 第1部毒薬:認可薬局(ASP)で、登録薬剤師の立会いと監督のもとでのみ販売できる(一部はさらに取引記録や医師の処方箋が必要)
衛生署は今回の発表の中で、イブプロフェンおよびジヒドロコデインを含む医薬品は第1部毒薬であり、登録薬剤師の監督のもとで認可薬局からのみ供給されるべきだと明記しています(衛生署、2026年8月時点)。日本ではドラッグストアの棚から選べる成分でも、香港では買える店が限られるということです。個々の製品がどの区分に当たるかは、包装の表示と販売店で確かめるのが確実です。なお押収品の商品名やブランドは公表されておらず、偽造品と判断されたという発表でもありません。
背景として、香港はコデイン系成分の管理を段階的に強めてきました。Drug Office によると、2024年1月26日以降、コデインの含有率が0.2%未満の製剤を医師の処方箋なしで販売する際は、購入者の身分証番号を含む個人情報を記録することが薬局に義務づけられています。押収品に含まれる疑いのあるジヒドロコデインも同系統の成分ですが、この記録義務や危険薬物条例(Dangerous Drugs Ordinance、第134章)の対象に当たるかどうかは、今回の発表からは判断できません。
その場でできる確認と、持ち込み前の手続き
買うとき
包装に「HK-XXXXX」の登録番号があるかを確認します。強めの鎮痛薬が必要なら、「Rx」ロゴを掲げ、当番薬剤師の登録証と在店時間を掲示している認可薬局(藥房/Pharmacy)を選びます。医薬品店(藥行など)にはRxロゴも薬剤師の常駐もありません。店の区分は Drug Office のサイトの「Search Drug Dealers」で屋号や住所から照会できます。
持ち込むとき
Drug Office は、入境者の携帯手荷物に入れられ、本人が携行し、かつ本人の自己使用のための合理的な数量である薬剤製品は、輸入ライセンスの要件が免除されうるとしています(2026年8月時点)。ただし「合理的な数量」が何錠・何箱までを指すのかという具体的な基準は公式に示されていません。まとめ買いや配布用の箱買いは、この前提から外れる可能性があります。
危険薬物条例にいう危険薬物を含む薬については、Drug Office は訪問者(トランジット客を含む)に事前の書面による承認を求めており、患者名・薬品名・用量・総量を記載した処方医の証明書が必要です。処理には通常10営業日ほどかかるとされ、渡航直前の申請では間に合いません。郵送その他の方法による個人使用目的の輸出入にはライセンスが発行されず、日本からの取り寄せに正規のルートは用意されていません。
譲る・売る
発表が罪名として「販売または所持」を挙げている以上、SNSや代購での売却、職場での配布はリスクが高い行為です。無償の譲渡が「販売」に当たるかは条文レベルでは確認できていませんが、安全側に寄せる判断が現実的でしょう。社内の救急箱や出張者向けに日本の市販薬をストックしている日系企業は、香港で登録された製品への切り替えや提携クリニック経由の対応を検討する余地があります。
まとめ
今回の発表のニュース性は、日本語表示の鎮痛薬が摘発対象として公表され、罪名に「所持」が含まれた点にあります。制度自体は従来どおりで、確認すべきは「HK-XXXXX」の有無と、買う店・持ち込む量・人に渡さないという基本です。衛生署も、服用前に医療従事者に相談し、成分や出所が不明な製品は購入しないよう呼びかけています。
薬の区分や手続きの運用は変わりうるため、実際に持ち込みや申請を行う際は、最新の情報を衛生署(Drug Office)・香港税関(Customs and Excise Department)の公式ページで必ず確認してください。
出典
- 衛生署 未登録薬剤製品の違法な販売・所持に対する取締りの発表(政府新聞公報、2026年8月5日)(閲覧日:2026年8月6日)
- 衛生署 同発表の中国語版(政府新聞公報、2026年8月5日)(閲覧日:2026年8月6日)
- 衛生署薬物弁公室(Drug Office) よくある質問(閲覧日:2026年8月6日)
- 衛生署薬物弁公室 認可薬局と医薬品店の違い(閲覧日:2026年8月6日)
- 衛生署薬物弁公室 香港の薬事規制制度(閲覧日:2026年8月6日)
- 香港税関(Customs and Excise Department) 禁止・規制物品(閲覧日:2026年8月6日)

